「冬は北海道のスキーリゾートへ、夏は沖縄のビーチホテルへ」
「系列の旅館が人手不足だから、今週だけ手伝いに行ってほしい」
複数の宿泊施設を運営するグループ企業にとって、季節繁閑に合わせてスタッフを動かせることは経営上の大きな武器です。日本人スタッフなら辞令一つで済む「異動」や「応援」ですが、特定技能外国人スタッフの場合は、法的なハードルが全く異なります。
知らずに日本人と同じ感覚で動かすと、「違法派遣(労働者供給事業)」とみなされる危険があります。今回は、グループ間異動の法的境界線と、適法に行うためのルールを解説します。
1. 大原則:特定技能(宿泊)は「直接雇用」のみ

まず、特定技能(宿泊分野)の絶対ルールとして、「派遣(人材派遣)」は禁止されています(※農業・漁業は例外的にOKですが、宿泊はNGです)。
つまり、「雇用契約を結んでいる会社(所属機関)」と「実際に働く場所(指揮命令を行う場所)」が一致している必要があります。これが判断の分かれ目になります。
2. 【OKなケース】「同一法人」内での異動・応援

運営会社が全く同じ(法人格が同一)であり、その会社が運営する「A店」から「B店」へ異動・応援に行くことは、法的には「配置転換」や「出張」となり、可能です。
| 必要な手続き | 内容の詳細 |
|---|---|
| 雇用契約書の記載 | 就業場所に異動先が含まれているか、「業務上の都合により就業場所を変更することがある」旨の規定が必要です。 |
| 入管への届出 | 長期の異動で就業場所が変わる場合、入管へ「雇用条件の変更届出」を提出する義務があります。 |
| 支援計画の変更 | 生活相談等の担当者が変わる場合は、支援計画書の変更届出もセットで行う必要があります。 |
3. 【NGなケース】「別法人」への貸し出し

ここが最大の落とし穴です。たとえ「同じ〇〇ホテルグループ」であっても、法人格(会社)が別であれば、異動や応援は「違法」になる可能性が高いです。
- NG例: 株式会社ホテルA(親会社)で採用したスタッフを、株式会社ホテルB(子会社・別法人)の現場で働かせる。
- 判定: これは「A社が雇用して、B社に労働力を提供した」ことになり、「違法な労働者供給(または無許可派遣)」とみなされます。
どうしても別法人へ移したい場合は、「在籍出向」という形をとる手もありますが、出向先が新たな受入れ機関となるため、ビザの変更申請等、ゼロから採用するのとほぼ同じ膨大な手続きが発生します。
4. 「応援(出張)」の日数に制限はあるか?

同一法人内であれば、数日〜数週間の短期的な「応援」は「出張」扱いで処理できます。
- 住所変更の有無: 生活の拠点が移る(住民票を移すレベルの)長期異動なら、在留カードの住所変更が必要ですが、短期間の出張ベースなら、契約上の勤務地変更までは不要なケースが多いです。
- 注意点: 「1年のうち半分は応援先」といった実態がある場合は、実質的な勤務地変更とみなされるため、入管への届出を実態に合わせる必要があります。
5. 採用計画段階での「伏線」が命

将来的にグループ間異動をさせたいなら、最初の契約が肝心です。
- 雇用主を「グループ統括法人」にする: 各施設ごとの採用ではなく、親会社で一括採用し、各施設へ配属する形(同一法人内異動)にする。
- 契約書に「全店舗への異動の可能性」を明記: 「勤務地:〇〇ホテル(ただし、会社の運営する他店舗への異動を命じることがある)」と記載し、本人にも説明して合意を得ておく。
まとめ:法人は「ひとつ」か「別」かを確認せよ
- 「同一法人」内の異動はOK。ただし、契約書の記載と入管への届出が必要。
- 「別法人(子会社含む)」への応援は、違法派遣になるため原則NG。
- 転勤の可能性がある場合は、採用時に本人に説明し、契約書に明記しておく。
日本人スタッフと同じ感覚で「グループなんだから融通してよ」と指示を出す前に、必ず「法人格」を確認してください。コンプライアンスを守りながら、機動力のある人員配置を行いましょう。



